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信用取引残の活用

株式投資の情報を集めていると「信用取引の買い残が多いから、しばらくは上がらないな・・」なんてことを言っている人を見つけることがあると思います。

「信用取引残をわかるようになって需給を読めるようになりたい!」

という方向けに、信用取引残についてわかりやすくまとめました。

信用取引の種類

株式の信用取引には、主に制度信用取引一般信用取引の2つの種類の取引があります。

制度信用取引は、証券会社が証券金融会社から資金や株式を借りることができる信用取引で、一般信用取引は、証券会社が自己の資金や株式を貸し出す信用取引です。

制度信用取引と一般信用取引の違いは以下の通りです:

  • 取り扱い銘柄:制度信用取引は東証および名証の上場銘柄のうち、取引所が選定した銘柄に限られます。一方、一般信用取引は、証券会社が独自に選定した銘柄についてお取引が可能です。
  • 逆日歩:逆日歩とは、保有している株式が不足した場合に支払わなければならない「足りなくなった株式の調達費用」です。制度信用取引では逆日歩が付く場合がありますが、一般信用取引では逆日歩はありません。
  • 金利:制度信用取引の金利は一般的に低く、一般信用取引よりもお得です。
  • 返済期限:制度信用取引は原則6ヶ月以内に返済する必要があります。一方、一般信用取引での返済期限は証券会社によって異なります。

わかりやすくまとめると、制度信用取引は、証券取引所が選定した銘柄についての取引で、金利が低い代わりに逆日歩が付く場合があります。一般信用取引は、証券会社が独自に選定した銘柄についての取引で、金利は制度信用取引より高いですが、逆日歩発生リスクがなく、カバーしている銘柄も多いです。

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制度信用取引は証券金融会社との制度で設けた信用取引ですので、売買できない銘柄もあったり、建玉に6ヶ月の期限が設けられていたりする制限があります。
一方、一般信用取引は各証券会社が独自の制度を作って行う信用取引ですので、相対的に高コストですが、建玉を無期限で保有できたり、制度信用取引では売れない銘柄を売れたりできます。

信用取引残とは

「信用取引残」とは、株式の信用取引における売りと買いの残高を指しており、 「信用買い残」とは、買い方の残高を、「信用売り残」とは、売り方の残高を指します。

信用取引残高は、日本証券取引所グループから毎週第2営業日(火曜日)の16:30頃に更新されています。

信用取引残高は、制度信用取引はもちろん、一般信用取引、自社内で完結させた売り買いの変動分までも含めた全体の状況を、各証券会社に報告させている非常に正確なデータです。

信用取引残高の活用

信用取引の残高は、買残と売残どちらも、決済期日までに反対売買される株数を表しています。

下の表はレーザーテックの10月6日分の信用残ですが、前週比で買残が増加し、売残が減少しているので、「将来の売り需要が高まる一方、買い需要は細くなった」と解釈することできます。

信用取引残高(2023年10月6日)

またこの週(チャート上で黄色く囲った部分)のレーザーテックの値動きを見てみると、週半ばで株価が下落、その後上昇していた週となっています。

ここから、「株価の下落によって信用売りをしていた投資家はショート(信用売り)ポジションを手仕舞いし、ここを押し目と判断した投資家が買い残を増加させた」と読むことができます。

翌週において株価はレンジ相場を抜け出して大きく上昇していますが、この週末(10月13日)の信用残高は売り残が大幅増加、買い残が大幅減少となっています。

信用取引残高(2023年10月13日)

ここから、「株価の上昇によってレンジ相場上限に近づいたためロング(信用買い)ポジションを手仕舞い、ショートポジションを新規に建てた」と解釈することができますが、予想以上の上昇となっており、需給については「将来の買い需要が高まる一方、売り需要は細くなっており、踏み上げ相場となっている」と解釈することできます。

日証金の貸借取引残高

「信用取引残高」と「日証金の貸借取引残高」は、似ていますが異なる指標です。

信用取引残高は、前述したように株式の信用取引における売りと買いの残高を指します。一方、「日証金の貸借取引残高」とは、日本証券金融株式会社が発表する、貸借取引(制度信用取引の後ろで行われる取引)の融資残高と貸株残高をまとめたものです。

日証金とは

日証金とは、日本証券金融株式会社の略称で、信用取引に必要な資金や株式を貸し付ける「貸借取引」を主な業務としている証券金融会社です。

日証金は、日本で唯一「貸借取引」を行える会社であり、各証券会社と貸借取引(制度信用取引の後ろで行われる取引)を行っています。

なお、日証金の貸借取引は、各証券会社が日証金と直接行うものではなく、各証券会社が制度信用取引を行う際に、日証金が提供する「貸借取引サービス」を利用して行われます。このサービスは、各証券会社が保有する株式等を日証金に預け、その株式等を担保に資金を調達することで、制度信用取引を行うための資金を調達することができます。

日証金の貸借取引残高

日証金の貸借取引残高とは、日本証券金融株式会社が発表する、貸借取引の融資残高と貸株残高をまとめたものです。

日証金残高は、営業日の19-21時に速報が出て、翌営業日の11:30から13:30に確報が出ます。ただし、各証券会社が自社内で相殺できなかった融資残高と貸株残高のみ公表されるため、信用取引全体の状況は示していないことに注意してください。

貸株

証券金融会社が証券会社に株式を貸し付けることで、ここでは貸し付けた株数の残高を表示しています。

融資

証券金融会社が証券会社に資金を貸し付けることで、融資した資金で信用取引された残高を表示します。

買い方は融資を受け、売り方は証券金融会社から株式を借りて取引を行います。買い方は融資を受けているので金利支払いが発生し、売り方は借りた株式に対する「貸株料」を支払うことになります。

信用取引残高と貸借取引残高の関係

前述したように、信用取引(制度信用取引および一般信用取引)は投資家と証券会社の間での取引、貸借取引(制度信用取引の後ろで行われる取引)は証券会社と日証金との間での取引です。

そのため一般信用取引分はズレが生じてしまいますが、制度信用取引分については関係があります。

上の表はレーザーテックの融資・貸株残高の動きですが、10/10と10/11にそれぞれ946,500株、787,800株の新規貸株が行われています。

売り方は証券金融会社(日証金)から株式を借りて信用売りを行うので、新規の貸株は信用売り建てが新たに増えたことを意味します。

実際に10月17日に公表された10月13日時点の信用取引残高増減を確認すると信用売りが前週比で増加していることがわかります。

このように日証金の融資・貸株残高をみることで信用取引残高を早期に予想することが可能になります。

信用取引残高(2023年10月13日)

厳密な話をすると、信用取引買い残高のうち制度信用残高は買い残高が1,006,200株、売り残高が2,305,300株と日証金で報告されている残高(融資46,000株、貸株1,567,700株)と一致しません。

これは日証金の貸借残高については各証券会社の信用買い残、売り残のネット金額が報告されているためです。

そのため差額で見れば理論的には一致することになります。

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制度信用ネット残高は△1,299,100株(売り残のほうが多い)、日証金残高は△1,521,700株となり近い金額になりますが、ズレていますね。これは制度信用取引による売買であったとしても、必ずしも日証金を通すわけではなく、証券会社が独自に引き受けているケースがあるためズレることになります。

日証金の株不足

日証金の貸借取引によって資金や株式の貸し付けを行っていますが、貸し付ける株式も無限にあるわけではありません。信用売り(空売り)の増加などによって、特定の銘柄の株式が不足してしまうこともあります。

この場合、証券会社は日証金などの証券金融会社に株を借りに行きます。

日証金の貸借取引における株不足はどうやって解消される?

日証金は生命保険会社などの株式を多く保有している機関投資家から現物株を調達してきます。このコストは、最終的にカラ売りしている投資家が負担します。

株不足銘柄は貸株超過銘柄とも呼ばれ、証券金融会社において信用取引の売り方に貸し出す株が不足している株数を表示しています。

証券金融会社は株不足を解消するため、不足株数の範囲内で証券会社からの追加申込を取消したり、また、品貸し申込みの受付を開始します。

相場格言「逆日歩に売りなし」とは

「逆日歩に売りなし」とは、株式相場の格言の一つで、逆日歩がついた銘柄は売ってはいけないという意味です。

逆日歩とは、証券会社が保有している株式が不足した場合に、その信用売りをした投資家が支払わなければいけない「足りなくなった株式の調達費用」です。

通常、買い方が金利(日歩)を支払い、売り方がそれを受け取るが、売り方の建て玉が買い方の建て玉を大きく上回り株不足となると、逆に買い方が売り方から逆日歩と呼ばれる品貸料を受け取ることができるため、買い方がいっそう増加することがあります。

また売り方は逆日歩の費用がかさむのを嫌い、損失覚悟で売り建てた価格より高値で買い戻すため踏み上げ相場となり価格が高騰しやすくなります。

ここから「逆日歩に売りなし」という格言が生まれました。

相場格言「逆日歩に買いなし」とは

「逆日歩に買いなし」とは、株式相場の格言の一つで、逆日歩がついた銘柄は買ってはいけないという意味です。

「逆日歩に売りなし」の踏み上げ相場となった状況において株不足がいったん解消されると、本来の売り圧力が強まり株価は反転して急落することから、下手に手を出さないほうが良いという「逆日歩に買いなし」という格言が生まれました。

日証金の貸借取引で利益を得る方法

日証金の貸借取引で利益を得る方法は、貸借金利の差額を利用することです。

つまり、日証金から資金を借りて、それを証券会社に貸し出すことで、貸借金利の差額分だけ利益を得ることができます。ただし、貸借取引には一定のリスクが伴います。例えば、株価が下落した場合には、証券会社から借りた資金や株式を返済できなくなる可能性があります。

そのため、貸借取引を行う際には、リスクについて十分に理解した上で、慎重に取引を行うようにしてください。

その他知っておくべきこと

増担保金徴収措置

「増担保金徴収措置」とは、証券取引所が信用取引の利用状況や、銘柄の特性を考慮し、必要と判断した場合に実施される規制です。ex.信用取引による新規の売付及び買付に係る委託保証率を70%以上(うち現金40%以上)とする。

この措置が実施されると、一般的には「制度信用取引」での空売りが制限されることになります。また、増担保金徴収措置に指定された銘柄は、信用取引に必要な資金が大きくなることで新規の買いが入りづらくなります。

そのため、増担保金徴収措置をきっかけに株価が値下がりすることがあります。

ただ増担保金徴収措置の解除については、これが好感され株価が上昇するきっかけになることがあります。

貸株注意喚起銘柄

「貸株注意喚起銘柄」とは、証券金融会社が貸借取引に必要な株式を調達できなくなるおそれがある場合に、証券会社や投資家に対して注意を促すために公表するものです。

つまり、貸株注意喚起銘柄は特定の銘柄について空売りが増加しており、今後も空売りが増加すると株不足となり、逆日歩が発生し、空売りが禁止となるリスクが高いことを意味します。

つまり、規制の一歩手前の状態であり、これが公表されるとこれ以上空売りするのが難しくなるので、底打ちのサインとなる場合があります。

ちなみに、貸株注意喚起は注意を促すものであり、規制ではありません。

用語解説

回転日数

回転日数とは、新規に信用取引を行ってから、返済するまでの日数のことです。信用取引で買ってから売るまで、または、売ってから買うまで、一回転するのに何日かかるかをあらわしたものです。

回転日数から、信用取引参加者の新規から返済までの期間が長いのか短いのかを知ることができます。

期間が短いときには、一般的に売買が活発に行なわれていると解釈され、期間が長いと、売買があまり活発ではないと解釈されます

また、個別銘柄の回転日数が5日以下の場合は、過熱感があり目先株価が逆に振れる可能性が高いと言われています。 証券金融会社と個別銘柄の回転日数の推移や日数を比較することが重要です。

満額、零銭

逆日歩には、「満額」と「零銭」という表現があります。

毎日19時ごろに行われる日証金速報で株不足が発生するケースがあります。この時点は速報なので確定ではありません。

この時点で翌営業日の10時までに証券金融会社は証券会社に対して、融資の追加申込や貸株の返済申し込みを受け付けます。信用取引による売買は、必ずしも日証金を通すわけではなく、証券会社が独自に引き受けているケースがあるからです。

これによって株不足が解消されることも少なくありません。その場合の表記が「満額」となります。

日証金速報時点では、株不足が発生しているように見えたとしても、実際には株不足じゃなかったという場合ですね。

「満額」と表記されている場合は入札は行われません。当然、逆日歩の金額はゼロです。

逆日歩が零銭というのは、株不足が発生しており、実際に入札は行われたものの、応札した機関投資家の入札金額が零銭(無料)で応じたということになります。

つまり、「満額」も「零銭」もどちらも逆日歩は発生しないことになります。

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