業界分析
東京電力HD(9501)の利益はなぜ振れるのか──原子力再稼働・期ずれ・廃炉コストの三層構造を読む

東京電力HD(9501)は、規制独占の送配電網と自由化市場の電力小売を二本柱に、原子力再稼働・燃料費期ずれ・廃炉特損の三要因で経常利益と純損益が大きく振れる国内最大の電力インフラ企業

本記事では、東京電力HDの利益が「原子力設備利用率」「燃料費等調整制度の期ずれ」「廃炉準備費用の追加計上」という三層構造でなぜ大きく変動するのか、因果構造と先行指標を中心に解説する。

💡 ワンポイント解説:まずざっくり言うと

東京電力HDは、関東エリアの家庭・企業に電気を届ける国内最大の電力会社です。送電線を使わせる「託送料金」という安定収入がある一方、原油やLNGの価格変動が電気料金に反映されるタイミングのズレ(期ずれ)で利益が数千億円単位で振れます。さらに福島第一原発の廃炉費用が突発的に数千億円の損失を生むため、「経常利益は好調なのに最終赤字」という特殊な財務構造を持っています。

この記事の結論

東京電力HDの利益は、柏崎刈羽原子力発電所の設備利用率、燃料費等調整制度の期ずれ影響、福島廃炉準備費用の追加計上という三要因に左右されやすい。

FY2025(2025年3月期)は経常利益4,173億円と前年比+64%の大幅増益を達成したが、廃炉工法見直しに伴う特別損失9,030億円により最終損益は▲4,542億円の大幅赤字となり、経常利益水準と純損益の方向が逆転する構造が鮮明となった。

投資家が次回決算で確認すべき先行指標は、①柏崎刈羽6号機の月次設備利用率、②燃料費等調整制度の期ずれ影響の符号、③廃炉準備費用の追加計上有無の3点である。

企業概要

東京電力ホールディングス(9501)は、持株会社体制のもとにパワーグリッド(PG:送配電)、エナジーパートナー(EP:電力小売)、フュエル&パワー(FP:燃料調達・火力発電)、リニューアブルパワー(RP:再生可能エネルギー発電)の4中核子会社を擁する国内最大の電力インフラグループです。支配株主は原子力損害賠償・廃炉等支援機構(政府系)であり、資本政策の自由度が民間企業と大きく異なる点が特徴です。決算期は3月期で、電気料収入規模は約4兆円に達します。

ビジネスモデル

東電HDの事業は「規制独占」と「競争市場」の二層構造で成り立っています。

第一層:送配電(PG)=規制独占の安定収益源。関東エリアの送配電網を独占的に運営し、電力小売事業者から託送料金を徴収します。収入はレベニューキャップ制度(規制当局が上限を設定)に基づくため、需要量に応じた安定的なキャッシュフローが期待できます。

💡 ワンポイント解説:「託送料金」とは?

送電線を使わせてもらう「通行料」のようなものです。どの電力会社から電気を買っても、東電の送電線を通る限りこの料金が発生するため、東電PGにとっては安定した収入源になります。

第二層:電力小売(EP)=自由化市場の競争事業。一般家庭・法人に電力を販売しますが、2016年の電力自由化以降、新電力との競争で顧客流出が続いています。一方で、データセンター事業者など大口法人の電力需要が急増しており、成長余地もある領域です。

この二層構造に加え、原子力発電(柏崎刈羽)の再稼働が利益の最大の変動要因であり、福島第一原発の廃炉・賠償費用が慢性的な純利益の下押し要因として作用する、極めて特殊なユーティリティ企業です。

収益構造

セグメント別売上構成と経常損益(FY2025実績)

セグメント 売上高 経常損益 事業性格 主要顧客類型
パワーグリッド(PG) 2兆2,943億円 817億円 規制独占(送配電) 電力小売事業者全般
エナジーパートナー(EP) 4兆9,896億円 2,549億円 競争市場(電力小売) 一般家庭・中小事業者・データセンター事業者
フュエル&パワー(FP) 37億円 833億円 燃料調達・火力発電 JERA(中部電力との共同事業体)経由
リニューアブルパワー(RP) 1,892億円 403億円 再エネ発電 卸電力市場(JEPX)・電力小売事業者
HD 8,268億円 1,289億円 グループ経営
調整額 ▲1兆9,752億円 ▲1,720億円 セグメント間消去
連結合計 6兆3,285億円 4,173億円

※FPの売上高37億円はHD間取引中心であり小額ですが、経常損益833億円はJERA経由の持分法投資利益等を含むため、利益貢献度は大きい点に留意が必要です。

売上の数式的分解

変数 算式上の位置 現在の水準(FY2025)
PG売上 託送電力量 × 託送単価 + 接続供給収益等 2兆2,943億円
託送電力量 ≒ エリア内総電力需要 4,275億kWh
EP売上 小売販売電力量 × 小売単価 4兆9,896億円
EP小売販売電力量 契約件数 × 1件あたり使用量 1,719億kWh(前年比▲8.1%)
EP契約件数 約151万件
EP小売単価 原料費調整単価 + 固定料金部分 市況連動
原子力設備利用率 再稼働で燃料費削減→利益改善 1.1%(ほぼゼロ水準)

過年度業績推移

項目 FY2023(実績) FY2024(実績) FY2025(実績) FY2026(会社予想)
売上高 6兆8,103億円 6兆3,285億円 未定・未開示
営業利益 2,344億円 3,376億円 未定・未開示
経常利益 2,544億円 4,173億円 未定・未開示
当期純損益 2,678億円 1,612億円 ▲4,542億円 未定・未開示
自己資本比率 25.1% 21.8%

※FY2023の売上高・営業利益・経常利益は複数資料間で要精査のため未記載。純利益のみ統合報告書より記載。FY2022以前は資料未取得のため省略。

FY2025の純損失▲4,542億円の主因:経常利益は前年比+63.9%と大幅増益ですが、福島第一原発の燃料デブリ取り出し工法見直しに伴い9,030億円の災害特別損失を計上したことが主因です。経常利益の改善と純損失の悪化は別要因であり、投資家は両者を切り分けて評価する必要があります。

売上のドライバー分析

利益構造の見方

階層 項目 FY2025水準 備考
経常利益 連結経常利益 4,173億円
├ 収益源A PG(送配電・規制独占) 817億円 固定費型、需要連動
├ 収益源B EP(電力小売・競争市場) 2,549億円 期ずれ影響で大幅変動
├ 収益源C FP(燃料調達・JERA持分) 833億円 原子力再稼働でコスト削減余地
├ 収益源D RP(再エネ) 403億円 卸電力価格連動
├ HD等 グループ経営 1,289億円 受取配当等含む
└ 調整 セグメント間消去 ▲1,720億円
特別損失 廃炉準備費用等 ▲約9,138億円 一時要因、不規則に発生
最終損益 当期純損益 ▲4,542億円 経常利益+特別損失の合算

※以上は経常利益の厳密な会計内訳と特別損失を便宜的に一覧化したものです。単純合算で当期純損益と完全一致させるものではありません(法人税等の影響あり)。

東京電力ホールディングス(9501)の業績ドライバーと利益変動要因を整理した構造図
東京電力ホールディングスの業績を左右する因果構造

ドライバー①:電力需要・大口顧客拡大 → PG・EP売上

因果構造:デジタル化・電化の進展 → 関東エリア電力需要 → 託送電力量・小売販売電力量 → PG・EP売上

日本のデジタル化(データセンター急増、半導体工場新設)やEV普及を背景に、関東エリアの電力需要は中長期的に増加する見通しです。電力広域的運営推進機関(OCCTO)は2026年4月、今後10年間で国内電力需要が5.3%増加する見通しを発表しました(データセンター建設遅延で増加ペースは鈍化傾向)。

東電HDの統合報告書によれば、関東圏でのデータセンター向け供給申し込み量は2024年4月時点で約1,200万kWに達しています。この規模感は、柏崎刈羽原発(1基あたり約110万kW)の約11基分に相当し、中長期の電力需要を構造的に押し上げる要因です。

しかしFY2025の実態では、エリア需要が横ばい(+0.3%、4,275億kWh)にもかかわらず、EP小売販売電力量は▲8.1%(1,719億kWh)と大幅減少しました。自由化後の競合他社(新電力)への顧客流出が主因とみられます。データセンター向け大口需要の取り込みが顧客流出を相殺できるかが、EP売上の分岐点です。

定量インパクト(単純試算):EP小売販売電力量が1%(約17億kWh)変動した場合、EP売上は約500億円規模で変動する計算です(4兆9,896億円÷1,719億kWh×17億kWh≒約493億円。ただし単価一定の前提であり、実際には燃料費調整で変動)。

ドライバー②:燃料価格・為替 → EP利益(期ずれ構造)

因果構造:LNG・原油の国際市況 → 燃料費等調整単価 → 期ずれ影響 → EP経常利益

東電HDの利益を最も不規則に変動させるのが「燃料費等調整制度の期ずれ」です。原油・LNG価格の変動が電気料金に反映されるタイミングにズレがあるため、燃料価格の下落局面では「調達コストは先に下がるが、売上(燃料費調整額)の減額は遅れて反映される」ことで、一時的に利益が押し上げられます。

FY2025はこの期ずれ好転が経常利益を大きく押し上げた主要因の一つであり、会社予想比で+1,403億円超の超過達成に寄与しました。一方、この好転は翌期に反転する可能性があり、FY2026の経常利益がFY2025から減少するリスクがあります。

FY2025の全日本CIF原油価格は71.4ドル/バレル(前年82.4ドルから下落)、USD/JPY為替は150.7円でした。2026年4〜5月時点では、中東情勢の緊迫化を背景にWTI原油先物が一時100ドル超を記録したとの報道(日経新聞等)があるほか、LNG価格も供給懸念から上昇圧力が報じられています。為替は複数の報道で150円台前半〜半ばでの推移が示唆されています(外為どっとコム等、2026年2〜3月時点)。燃料価格の上昇はEPの調達コストを押し上げ、期ずれの方向次第ではFY2026の経常利益を数百〜数千億円単位で変動させる可能性があります。

重要なトレードオフ:燃料価格が下がると売上高は減少(燃料費調整収入の縮小)しますが、利益は改善することがあります。売上高のトレンドと利益のトレンドが逆方向になりやすい点は、投資家が見落としやすい構造です。FY2025の売上高が前年比▲7.1%減収でありながら経常利益が+63.9%増益となったのは、まさにこの構造を反映しています。

ドライバー③:原子力再稼働 → コスト削減 → 大幅利益増

因果構造:政府の原子力政策・規制当局の審査 → 柏崎刈羽設備利用率 → 燃料費削減 → 経常利益の大幅改善

柏崎刈羽原子力発電所6号機は2026年4月に営業運転を再開しました。原子力の限界発電コストはLNG火力より大幅に低いため、同じ電力量を原子力で発電すれば燃料費が大幅に削減されます。FY2025の設備利用率はわずか1.1%(ほぼゼロ水準)であり、本格稼働すれば利益改善の最大トリガーとなります。

ただし、再稼働後の安定稼働にはリスクが伴います。原子力規制委員会の指摘、地震リスク、過去のデータ改ざん問題の影響など、再停止の可能性は常に存在します。7号機の躯体工事完了は2029年8月予定(統合報告書記載)であり、フル稼働までの道のりは長期にわたります。

定量インパクト:原子力再稼働フル稼働時の利益インパクトは数千億円規模の可能性がありますが、具体的な感応度数値は会社非開示です(有価証券報告書で要確認)。

ドライバー④:廃炉・賠償コスト → 特別損失 → 純利益悪化

因果構造:燃料デブリ取り出し技術の難度 → 廃炉工程見直し → 特別損失計上 → 純利益・純資産毀損

FY2025は燃料デブリ取り出し工法の見直しに伴い9,030億円の災害特別損失を計上しました。賠償見通し額は2026年3月認定ベースで累計13兆7,578億円まで膨張しています。廃炉総費用は会社開示で2.45兆円規模です。

この費用は経常利益がいくら改善しても純利益を不規則に押し下げる構造的要因であり、FY2025の「経常利益+4,173億円 → 特別損失▲約9,138億円 → 純損失▲4,542億円」という大きな乖離がその典型例です。

廃炉費用の追加計上タイミングは予測困難であり、投資家は廃炉工程の進捗や工法変更のプレスリリースを常に注視する必要があります。

💡 ワンポイント解説:「期ずれ」と「廃炉損失」の違い

「期ずれ」は燃料価格の反映タイミングのズレで毎期発生し経常利益を変動させます。「廃炉損失」は技術的な工程見直しで不規則に発生し特別損失として純利益を直撃します。両者は別メカニズムですが、いずれも利益予測を難しくする要因です。

先行指標

指標名 現在の数値・水準 直近の変化 企業への影響 重要度
柏崎刈羽 設備利用率 1.1%(FY2025)、6号機は2026年4月に営業運転再開 FY2024の0%から改善方向 本格稼働で燃料費削減→経常利益数千億円規模の改善可能性
燃料費等調整制度の期ずれ影響 FY2025は好転方向(経常利益を大きく押し上げ) FY2026は反転リスクあり(方向未定) 経常利益を数百〜数千億円単位で変動させる
廃炉準備費用の追加計上 FY2025:9,030億円(一時要因) 燃料デブリ工法見直しで大幅計上 純利益を不規則に悪化、自己資本比率を毀損
EP小売販売電力量 1,719億kWh(FY2025、前年比▲8.1%) 顧客流出で悪化継続 EP売上の最重要KPI、1%≒約500億円規模
全日本CIF原油価格 71.4ドル/バレル(FY2025実績)。2026年4〜5月時点ではWTI先物が一時100ドル超との報道あり(日経新聞等、報道ベース) FY2025実績より上昇圧力 EP調達コスト・期ずれ影響に直結
USD/JPY為替 150.7円(FY2025実績)。2026年2〜3月時点では150円台前半〜半ば(外為どっとコム等) 円安水準で推移 燃料調達コスト(円ベース)に影響
データセンター向け供給申込量 約1,200万kW(2024年4月時点、統合報告書) 急増 EP大口法人契約・PG系統投資需要を押し上げ
自己資本比率 21.8%(FY2025末) 前年25.1%から悪化 20%割れで資金調達コスト悪化リスク
関東エリア電力需要 4,275億kWh(FY2025) 前年比+0.3%(横ばい) PG託送量に直結
賠償見通し額 13兆7,578億円(2026年3月認定) 漸増傾向 政府支援枠組みと連動、増額リスク

※関東エリア電力需要は現状横ばいで短期的な業績変動への寄与は限定的ですが、OCCTO予測の国内電力需要+5.3%(今後10年)が示すように、データセンター・半導体工場の建設進展次第で中長期的に重要度が上がる可能性があります。賠償見通し額は政府支援枠組みとの関連が強く、東電HD単体の事業判断で変動しにくいため現時点では低重要度としていますが、増額ペースが加速すれば財務圧迫要因として重要度が上がります。

先行指標を左右する要因

先行指標 増加・好転要因 減少・悪化要因
柏崎刈羽 設備利用率 6号機の安定稼働、7号機工事進捗、政府の原子力推進政策(第7次エネルギー基本計画) 規制委員会からの指摘、地震・自然災害、設備トラブル、地元同意撤回
期ずれ影響 燃料価格の持続的下落(調達コスト先行低下) 燃料価格の急騰(調達コスト上昇が売上反映に先行)、為替の急激な円安
廃炉準備費用 工法確定・工程安定(追加計上不要) 燃料デブリ取り出し技術の難航、工法再見直し
EP小売販売電力量 データセンター向け大口契約拡大、新サービス投入 新電力との価格競争激化、顧客離脱加速
原油・LNG価格 中東情勢の安定、OPEC+増産 中東情勢の緊迫化、供給懸念、LNG生産トラブル

業績予測(3シナリオ)

FY2026通期業績予想は会社未開示です。以下はドライバー分析に基づく方向感の整理であり、確定予想ではありません。

シナリオ 主な前提条件 経常利益の方向感 純損益の方向感 確認トリガー
ベース 6号機順調稼働、燃料価格横ばい〜微上昇、期ずれ中立(FY2025好転の反動)、廃炉特損の追加計上なし FY2025(4,173億円)から減少する可能性(期ずれ反動が主因) 廃炉特損なければ黒字転換の可能性 四半期ごとの期ずれ影響開示
上振れ 6・7号機の設備利用率が想定超、データセンター大口契約の前倒し拡大、燃料価格のさらなる下落 FY2025水準に近い高水準を維持する可能性 純利益の大幅改善・黒字化の可能性 月次設備利用率、データセンター向け新規契約量
下振れ 柏崎刈羽の再停止、中東情勢による燃料価格急騰、廃炉費用の再追加計上、自己資本比率20%割れ 大幅減益リスク 純損失の再発・拡大リスク 柏崎刈羽の停止報道、廃炉工程変更プレスリリース

※上振れ・下振れシナリオの業績インパクトは会社非開示の変数が多く金額での断定が困難なため、方向感での記載としています。

将来性・成長性

短期(1〜2年):柏崎刈羽6号機の安定稼働が最大の焦点です。再稼働が順調に進めば、燃料費削減を通じた利益改善が期待されます。一方で、FY2025の期ずれ好転の反動で経常利益は一時的に減少する可能性があります。

中期(3〜5年):7号機の稼働(2029年8月躯体工事完了予定)、データセンター向け大口電力供給の本格化、再エネ発電容量の拡大(2030年度に600〜700万kW、現状346万kW)が成長ドライバーです。統合報告書では2030年度以降に純利益4,500億円規模を目標としています。

長期(5年超):廃炉・賠償の資金捻出(約5,000億円/年)が継続する中、10年間で11兆円規模とされる設備投資計画(Japan Times/TEPCO、報道ベース・出典要確認)の執行と資金調達のバランスが財務上の最大課題です。カーボンニュートラル目標(2035年度にScope1・2のGHG排出量2019年度比52%削減)の達成には、原子力と再エネの両輪が不可欠です。

構造的リスク:廃炉費用の追加計上は今後12〜15年にわたり不規則に発生する可能性があり、純利益の予測可能性を構造的に低下させます。自己資本比率21.8%の低水準が続けば、信用コスト上昇を通じて設備投資計画を制約するリスクも否定できません。無配継続(FY2025期末・FY2026全期)であり、株主還元の再開時期は見通せない状況です。

競争優位性

東電HDの最大の競争優位は、関東エリアの送配電網を独占的に運営するPG事業のネットワークインフラです。レベニューキャップ制度のもとで安定収益を得られるこの事業は、他社が参入できない構造的な堀(モート)を持ちます。また、関東エリアは国内最大の電力需要圏であり、データセンター等の大口需要が集中する地域でもあるため、系統増強の恩恵を最も受けやすい立場にあります。

一方で、EP(電力小売)では自由化後の顧客流出が続いており、競争優位は盤石ではありません。東電HDの特殊性は、廃炉・賠償負担という他社に類例のないコスト構造にあり、これが財務面での競争上の劣位を生んでいます。

同業他社比較

東電HDは廃炉・賠償負担という固有要因のため、他の大手電力会社と単純比較することは困難です。以下は定性的な構造比較にとどめます。

比較軸 東電HD(9501) 関西電力(9503) 中部電力(9502)
規模 国内最大(総資産ベース) 国内2〜3位圏 国内2〜3位圏
原子力再稼働進捗 柏崎刈羽6号機再開(2026年4月) 複数基が先行再稼働済み 浜岡は安全審査中
廃炉・賠償負担 累計13.8兆円規模(他社に類例なし) なし なし
自己資本比率 21.8%(低水準) 東電HDより高水準とみられる(具体値は各社資料で要確認) 同左
配当 無配 配当あり 配当あり
小売競争 関東圏で顧客流出継続(▲8.1%/年) 関西圏で同様の課題 中部圏で同様の課題

関西電力(9503)は原子力の先行再稼働による利益改善を実現しており、東電HDが柏崎刈羽でどこまで追いつけるかが一つのベンチマークです。中部電力(9502)はJERAを通じた火力発電事業で東電HDと事業上の結びつきがあります。

リスク

リスク項目 内容 影響度 顕在化条件 対称性(強気材料との裏表)
廃炉費用の追加計上 燃料デブリ取り出し工法が未確定。今後12〜15年にわたり支出継続。追加計上のたびに純利益・純資産を毀損 廃炉工程の見直し発表 経常利益の改善が純損益に反映されにくい構造
柏崎刈羽の再停止・遅延 6号機再稼働後の再停止(規制指摘、地震等)で利益改善シナリオが崩壊 規制委員会の指摘、自然災害、設備トラブル 再稼働→利益大幅改善の裏返し。原子力依存度が高いほどリスクも大きい
期ずれ影響の悪化 FY2025の好転が翌期に反転。EP利益に数百〜数千億円の変動 燃料価格の急騰、為替の急激な円安 期ずれ好転→利益押上げの対称リスク
EP小売競争の深刻化 顧客流出が加速し、大口需要取込みで相殺できない場合 新電力の価格攻勢、サービス差別化の遅れ データセンター向け契約拡大の裏面
財務体質の劣化 自己資本比率21.8%、有利子負債6.6兆円。純損失継続で20%割れリスク 廃炉特損の再計上、FCF赤字の継続 設備投資拡大→成長戦略推進の裏面
賠償見通し額の増加 累計13.8兆円から更なる増額の可能性 政府・機構の認定額改定 政府支援枠組みとの連動

まとめ

東京電力HD(9501)は、送配電の規制独占という安定収益基盤と、原子力再稼働・燃料費期ずれ・廃炉コストという三層の変動要因が複雑に絡み合う、国内で最も特殊な電力インフラ企業です。FY2025は経常利益4,173億円と大幅増益を達成しましたが、廃炉特別損失により最終赤字に転落しました。FY2026は柏崎刈羽6号機の本格稼働が利益改善の最大のドライバーとなる一方、期ずれ好転の反動や廃炉費用の再計上リスクが下押し要因として残ります。

投資家はこの企業を評価する際、経常利益と純損益を明確に切り分け、それぞれの変動要因を個別に追跡することが不可欠です。

次の四半期決算で確認すべき3指標:

柏崎刈羽6号機の月次設備利用率(本格稼働の進捗が利益改善の最大トリガー)

燃料費等調整制度の期ずれ影響の符号(FY2025の好転が反動で悪化するかどうか、経常利益の方向を左右)

廃炉準備費用の追加計上有無(突発的な特別損失が純損益を不規則に変動させるため、廃炉工程の進捗発表を注視)

参照資料

  • 東京電力ホールディングス IR情報(決算説明資料・決算短信)
  • 東京電力ホールディングス 統合報告書(データセンター供給申込量・再エネ発電容量・廃炉費用等)
  • 東京電力ホールディングス 第五次総合特別事業計画変更認定資料(賠償見通し額)
  • 電力広域的運営推進機関(OCCTO)国内電力需要見通し(今後10年間で+5.3%)
  • 経済産業省 第7次エネルギー基本計画(2025年2月)
  • 外為どっとコム トゥデイ(USD/JPY為替水準、2026年2〜3月時点)

よくある質問

Q. 東京電力HD(9501)の業績ドライバーは何ですか?

A. 柏崎刈羽原子力発電所の設備利用率、燃料費等調整制度の期ずれ影響、福島廃炉準備費用の追加計上が三大ドライバーです。FY2025は期ずれ好転で経常利益が前年比+64%の4,173億円に達しましたが、廃炉特損9,030億円により最終損益は▲4,542億円の赤字となりました。規制独占の送配電(PG)は安定収益源として機能する一方、電力小売(EP)は競合他社への顧客流出(販売電力量▲8.1%)が課題です。

Q. 東京電力HD(9501)への投資リスクは何ですか?

A. 最大のリスクは廃炉費用の追加計上と原子力再稼働の停止・遅延です。廃炉費用は燃料デブリ工法の見直しにより不規則に数千億円規模で発生し、経常利益の改善を帳消しにする可能性があります。柏崎刈羽6号機が再停止すれば利益改善シナリオが崩壊します。自己資本比率21.8%と財務体質も脆弱であり、無配継続のため株主還元も見通せません。

Q. 東京電力HD(9501)が恩恵を受ける条件は何ですか?

A. 柏崎刈羽6・7号機の安定稼働、データセンター向け大口電力契約の前倒し拡大、燃料価格の安定・低下が主な恩恵条件です。原子力のフル稼働は燃料費を大幅に削減し、数千億円規模の利益改善をもたらす可能性があります。また、関東圏で約1,200万kW分のデータセンター供給申し込みが実際の契約に転換すれば、EP売上の底上げとPG系統投資の拡大につながります。

執筆:FIC投資研究所

本記事は、AIを活用して決算説明資料、中期経営計画、統合報告書、各種開示資料、ニュースを整理したうえで作成し、公開前にFIC投資研究所が内容確認と編集を行っています。特定の銘柄の売買を推奨するものではなく、投資判断は読者ご自身の責任で行ってください。記載された数値・見通しは作成時点の情報に基づくものであり、将来の結果を保証するものではありません。


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