
アンリツ株式会社について有価証券報告書や中期経営計画、ニュースリリースから投資価値を独自に分析していきます。
記事の最後には、EPSと株価の相関関係から算出した株価予想も記載していますので、最後まで読んでいただけますと幸いです。
Contents
企業概要
企業名 | アンリツ株式会社 |
上場市場(上場年月) | 東証プライム(1961/10) |
時価総額(業種別時価総額順位) | 1,724億円(電気機器 57 / 246 社) |
外国法人持株比率 | 25.4% |
予想配当利回り | 3.15 % |
監査法人 | 有限責任 あずさ監査法人 |
業務内容 | 通信用計測器世界3位。スマホの端末開発向けや基地局通信インフラなど計測ソリューションを手掛け、動作検証に定評。東北第2工場新棟稼働で、水害・地震リスクを低減。ネットワーク高速化需要取入れ、中間期は増収。 記:2022/10/28 通信用計測器で国内シェアトップ。通信計測事業は売上堅調。ネットワーク高速化に向けた測定需要等が寄与。23.3期3Q累計は増収。 記:2023/02/08 |
JPX日経インデックス400構成銘柄への選定
アンリツは「JPX 日経インデックス400」の構成銘柄に選定されています。

「JPX 日経インデックス400」は、資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸条件を満たした「投資家にとって投資魅力の高い企業」で構成され、日本企業の魅力を内外にアピールするとともに、その持続的な企業の評価や株式の流動性だけでなく、企業の財務状況など、株式市場の活性化を図る事を目的として創生された株式指数です。
現在の投資の流行はインデックス投資ですから、インデックスの構成銘柄になることで大きな買い圧が生まれることが期待できます。
電気機器で JPX 日経インデックス400に採用されている会社は以下の通りです。



転載元:FISCO
競合他社
4Gまではアンリツとローデ・シュワルツ(独・非上場)の2社で市場を取り合ってましたが、5Gでローデ社は参入が遅れ、キーサイト・テクノロジーズ(米・NYSE上場)が5Gになって新規参入してきました。これらの企業とアンリツは、計測器の分野で世界市場をほぼ3分しています。
アンリツは、5G関連の計測器で優位性を持っており、アジアで端末やネットワーク機器の開発が進む中で需要が高まっています。
1社で5Gの市場をすべてカバーできるほど5G市場は小さくありませんので、アンリツとキーサイトの2社で5Gの市場を取ることになります。
5G計測器の需要は、2022年~2023年がピークになると予想されています。ただし、ローカル5Gやミリ波帯の用途開拓が進めば、ピークが1~2年先延ばしになる可能性もあります。
また、5GはIoT実現の要であることから、通信業界だけではなく自動車や医療業界へのビジネスチャンスの広がりが期待されています。
事業内容
アンリツは、情報通信の分野で、各種通信システムやサービス・アプリケーションの開発、品質保証に欠かせない計測器や食品・医薬品用異物検出機や重量選別機、遠隔監視制御システム、帯域制御装置などを提供しています。
アンリツグループは、無線通信実験が世界で最初に成功した1895年に誕生し、常に情報通信の最先端技術を追い求めるパイオニアとして、挑戦の道を歩んできました。
コアコンピタンスである「はかる」技術をベースに、情報通信分野と食品・医薬品分野を中心に支えてきましたが、従来の「はかる」を超えた新しい領域へ踏み出すために、経営ビジョンを一新しています。
アンリツは"「はかる」を超える。限界を超える。共に持続可能な未来へ。"を新しい経営ビジョンとし、以前の計測事業のみならず様々な領域に挑戦し、攻めの姿勢で今までのアンリツの限界を超えるべく取り組んでいます。
得意分野としては、次世代携帯通信規格「LTE-Advanced」などの新しい通信技術の研究開発から、端末・通信装置の製造、通信インフラの構築・保守、ネットワークの品質保証に至るまでの一連のソリューションを提供することが挙げられます。
アンリツの製品はどのように使われている?
携帯電話や多機能情報端末、あるいはパソコンなどから世界中の情報にアクセスし、様々なコンテンツを利用するのが日常的になっている今日、情報通信ネットワークでは膨大な量の通信信号がやり取りをされています。
アンリツの計測ソリューションは、有線・無線通信網を飛び交う、こうした目に見えない通信信号を「見える化」し、定められたルールに従って正しく通信が行われているかを確認するものです。
つまりアンリツの測定器を使うことで電波(強さであったり速さ)、周波数、光など目に見えないものを可視化することができます。それにより品質を測定することができるようになります。
強み・弱み
アンリツの強みは、以下のような点が挙げられます。
- 5G(第5世代移動通信システム)関連市場で高いシェアを持ち、チップセット開発から製造検査まで幅広い技術を提供していること
- 電子計測器や通信機器などの製品やサービスが多岐にわたり、多様なニーズに対応できること
- IoT(モノのインターネット)、自動運転、宇宙・防衛などの先端技術分野にも積極的に参入し、新たな成長機会を探っていること
アンリツの弱みは、以下のような点が挙げられます。
- モバイル市場に依存度が高く、市場環境や競合他社の動向に左右されやすいこと
- 新型コロナウイルス感染症の影響で海外事業や設備投資が減少し、業績にマイナス要因となっていること
- 研究開発費や設備投資費が高く、収益性を向上させるためには効率化やコスト削減が必要であること
アンリツの将来性は、以下のような点が期待されます。
- 5G関連市場は今後も拡大する見込みであり、アンリツはその需要を取り込むことができる可能性が高いこと
- IoTや自動運転などの先端技術分野では、電子計測器や通信機器の需要が増加すると予想され、アンリツはその分野で差別化した製品やサービスを提供することができる可能性があること
- アジア地域を中心に海外事業を拡大し、グローバル展開力を強化することで収益基盤を広げることができる可能性があること
目標とする経営指標
アンリツは、2021年4月に「中期経営計画 GLP2023」を発表しました。この計画では、2023年度までに以下のような経営指標を目標としています。
- 売上高:1,400億円
- 営業利益:270億円
- 営業利益率:19%
- 当期利益:200億円
- ROE:15%
アンリツは、5G(第5世代移動通信システム)やIoT(モノのインターネット)などの先端技術に対応した製品やサービスを提供し、市場シェアや収益性を高めることで、経営指標の達成に向けて取り組んでいます。

事業セグメント
アンリツの事業セグメントは、以下の通りです。
セグメント | 取扱商品またはサービスの内容 |
---|---|
通信計測事業 | サービス・プロバイダ、ネットワーク機器メーカー、保守工事業者などへ納入する、多機種にわたる通信用及び汎用計測器、測定システム、サービス・アシュアランスの開発、製造、販売を行う。 a.モバイル市場 携帯電話サービスを行うサービス・プロバイダの端末受入検査用途向け計測器や、スマートフォン等の携帯電話端末やICチップセット、その他関連電子部品メーカーでの設計、生産、機能・性能検証、保守用途向けの計測器等が含まれる。 b.ネットワーク・インフラ市場 有線・無線通信事業者のネットワーク建設、保守、監視及びサービス品質保証用途向けのソリューションや、ネットワーク機器メーカーの設計、生産、試験及び調整用途向けソリューション等が含まれる。 c.エレクトロニクス市場 通信ネットワークに関連する通信機器やその他の電子機器に使用される電子デバイスの設計、生産、評価をはじめ、エレクトロニクス分野で幅広く利用されている計測器等が含まれる。 |
PQA事業 | 高精度かつ高速の各種自動重量選別機、自動電子計量機、異物検出機などの食品・医薬品・化粧品産業向けの生産管理・品質保証システム等の開発、製造、販売を行う。 なおPQAとはプロダクツ・クオリティ・アシュアランスの略称です。 |
その他の事業 | 環境計測事業、センシング&デバイス事業、物流、厚生サービス、不動産賃貸等を行う。 |

売上の規模としては「通信計測事業」の割合が大きく、「PQA事業」「その他の事業」と続いていきます。

利益の太宗は「通信計測事業」から計上されており、「PQA事業」と「その他の事業」からは不定期に計上されています。
業績
アンリツの過去の業績は以下の通りです。

EPSの推移と予想EPS

四半期EPS推移

2023年3月期2Qは、売上高は539億円(前年同期比+5.3%増)、営業利益は54億円(前年同期比△27.7%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益は51億円(前年同期比△6.7%減)となりました。
2022年1月27日、3Qの短信が発表されると同時に、残念ながら通期業績予想の下方修正もお知らせされました。
通信計測事業

当第2四半期連結累計期間は、5Gチップセット及び携帯端末の開発需要やデータセンター等でのネットワーク高速化に向けた開発・生産関連需要を獲得し、売上収益は前年同期と同水準となりました。
費用面では、原材料価格の高騰に加え、世界的なインフレ、人件費上昇等による固定費の増加や販売促進費の増加が影響し、前年同期比で減益となりました。
なお、上記理由により2Q時点で営業利益の通期予想を下方修正しています。
通信計測事業の主要市場である情報通信分野においては、各国オペレータが5Gサービスを開始していますが、5Gミリ波の技術的課題や、米国Cバンド(マイクロ波帯を分割する際の一つの周波数帯(4~8GHz)の呼び名)の商用化スケジュールの遅れなどにより、5Gスマートフォンの普及速度は緩やかになっています。
ミリ波による5G商用化の普及が遅れていた米国においては、Sub6GHz帯であるCバンドによる商用化に向けて基地局の建設等が開始されており、基地局の建設保守用の計測器需要が今後期待されます。

これらの市場動向の変化に伴い、有線・無線技術を最適化した計測ソリューションの需要が本格化しています。さらに、クラウドサービスを支えるデータセンターの高速化を背景に、高速データ通信装置の市場が拡大するとともに、高速光通信モジュールの研究開発や製造市場が増加基調にあり関連する計測機器の需要が高まっています。
これからの重点分野
アンリツは2021年4月に2023年度までの中期経営計画である「中期経営計画GLP2023」を発表しています。
その中でアンリツが今後3年で重視すべき重点領域を挙げているので見ていきます。
アンリツは「ローカル5G」「EV、電池」「医療・医薬品」「光センシング」の4つを重点領域としています。
これらの領域で外部との連携、またM&A等により成長を加速させていくとのことです。
ローカル5G
5GというのはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのキャリアが提供する「キャリア5G」のほかに、企業や自治体が敷地内で運用する「ローカル5G」があります。
ローカル5Gで使える電波には、周波数の高い「ミリ波」と周波数の低い「Sub6(サブシックス)」があり、5Gの特長①超高速大容量、②超高信頼低遅延、③多数同時接続のすべてを満たすには「ミリ波」を使う必要があります。
ただこのミリ波を使うには近くに基地局が必要になるものの、キャリア5Gの「ミリ波」基地局を待っていてはいつまでたってもフルスペック5Gを使えないため、「ローカル5G」として敷地内に基地局を建設してミリ波を使えるようにするニーズ、そしてセキュリティ等の観点からローカル5Gのニーズがあります。
アンリツではスマートフォン計測市場の需要は、Sub6GHz関連は2023年頃にピークとなり、ミリ波に関してはその1年後ぐらいに需要のピークが来るとみているとのことです。
左記のようにIoTデバイス数は「通信」分野ではすでに飽和状態にあり、今後は「産業用途」や「自動車・宇宙航空」分野でのIoTデバイス数の増加が見込まれています。
それに伴い5Gは以前のようなモバイル分野だけでなく自動車分野での活用や産業機械分野など幅広い分野での利用されることが見込まれています。
アンリツではそれに伴いモバイル以外の領域でビジネスをしていく計画です。
5G/ローカル5Gにおける業務提携
2021年10月27日、移動通信における工事実績や、ローカル5Gで各種の実証実験等を行いノウハウのあるNECネッツエスアイと、通信計測機器メーカーとしてネットワークや無線通信端末の通信品質検証に知見のあるアンリツと電波伝搬シミュレーションおよび実測を融合したサービスを提供するAK RadioDesignの3社が業務提携することが発表されました。(日経記事)
電波検証をパッケージサービスとして提供し、ローカル5G導入にあたってのお客さまの負担を軽減することを目的としたものです。
New!! 株式会社構造計画研究所との共同出資会社であるAKRadio Design株式会社が総務省の国プロにおけるローカル5G案件の受注を獲得。(2022年3月期3Q発表)
EV、電池
2021年7月30日に株式会社高砂製作所を子会社化するとのリリースがありました。
買収の理由としては以下の通りです。
カーボンニュートラル社会の実現に向け、自動車などの内燃機関電動化や再生可能エネルギーの利用、社会インフラの省電力化などの取り組みが世界中で加速中。 これらの分野では、性能の向上および耐久性や安全性を担保する、品質保証をテーマとした研究開発や生産活動が活発化しており、電気エネルギーをきめ細かく制御する試験システムが求められてる。 また、特に自動車業界では、研究開発の効率化のため、供試体の動作環境を擬似的に再現できる試験設備の重要性が高まっている。 そこで業界屈指の高電圧・大電流・大容量の電気エネルギー制御技術や業界を牽引するお客さまとの取引関係を持つ株式会社高砂製作所を、この分野を開拓するための中核と位置づけアンリツグループに迎え入れ、さらにアンリツが計測事業で培ってきた試験システム構築技術やグローバルな事業基盤を活用することで、高度化とグローバル化が進む EV および電池測定の分野で測定市場の開拓を加速する。
これから自動車はEVがメインとなり、エネルギー分野においても蓄電池の品質向上に伴う電池市場の拡大を見据えた買収で期待できます。
New!! 株式会社高砂製作所のM&Aを1月4日に完了(2022年3月期3Q発表)
なお、2022年1月4日付で連結子会社化した株式会社高砂製作所の第4四半期の業績を取り込むことに伴い、売上収益及び営業利益がそれぞれ増加する見込みです。
米国Cバンド需要
米国と欧州では、Cバンドと呼ばれる3.7G~4.2GHzの周波数帯の下部を5Gアプリケーション用に開放する予定です。この周波数スペクトラムを利用することで5Gは従来のモバイル周波数バンド下部よりも多くの帯域幅を活用することができます。
Cバンド関連では、アンリツは以下の需要が見込まれます。
バンド内の電波干渉問題と、航空機の高度計向け電波との干渉問題の解決のため、1か月以上の遅延が発生したが、空港周辺を除いて5Gサービスを開始
米国、韓国、日本のスマホベンダーからの需要は堅調
キャリア、テストハウス、スマホベンダーからの需要は堅調
一方でCバンドは現在、衛星地上局(SES)への衛星のダウンリンク用に使用されているため干渉してしまう恐れがあります。

2021年11月、AT&TとVerizonの米国2大モバイルネットワーク事業者は、米国連邦航空局(FAA:Federal Aviation Authority)が主張する「5Gの電波干渉が電波高度計など航空機の精密機器に影響を与え、視界が悪い状況下の運航に支障をきたす可能性がある」との警告を受けて、新たなCバンド5Gサービスの開始を2022年1月に延期することに合意しています。(引用元:EE Times)
また2022年1月になって、航空業界はAT&TとVerizonが新しいCバンド5Gネットワークを起動する米国時間1月19日に「破局的な」危機をもたらす可能性があると主張し、米国で最も繁忙で重要な空港の2マイル(約3.2キロメートル)以内で5Gサービスを提供しないよう求めました。(引用元:techcrunch)
これにより、AT&TとVerizonは1月18日に翌19日に開始を予定していた第5世代移動通信システム(5G)の新サービスについて、航空業界への影響を考慮して一時的に延期することを発表しています。(引用元:JETRO)
2030年に向けた事業の方向性
最後に2030年に向けた事業の方向性について載せておきます。

テクニカル分析


5G関連銘柄として2017年ごろから思惑で買われてきたアンリツですが、2021年より下落トレンドとなっています。
株価予想

EPSと株価の相関関係を使用して将来の価格を予想してみます。
株価からBPSを控除した金額の時間推移を利用した予測モデルをModel1、株価とEPSの相関を使用した予測モデルをModel2としています。
相関係数はModel1で46.8%、Model2で69.3%となっておりますので、株価とEPSにはかなり相関があるといえます。
相関係数の絶対値 | 一般的な解釈 |
---|---|
0~20% | ほとんど相関関係がない |
20~40% | やや相関関係がある |
40~70% | かなり相関関係がある |
70~100% | 強い相関関係がある |
Model1
Model1で算出した価格は2023年3月期で2,051円、2024年3月期で2,187円となっています。

Model2
予想EPSは2023年3月期が94.9円、2024年3月期が94.9円となっており、Model2で算出した価格はそれぞれ1,658円、1,658円となっています。
